佐藤くんは甘くない
静かな教室から聞こえるのは、どこか遠くで演奏しているのか吹奏楽部の楽器の音、盛り上がる観客の声。
それが時々その音が途切れて、風でカーテンがこすれる音が聞こえてくる。
近くに人はいないのか、佐藤くんと私の息遣いがたまにタイミングが合わさる。そのことすら気恥ずかしくて、私はなるべく佐藤くんと視線を合わせないように目を逸らす。
ええっと、なんだっけ。
あの舞台の時、佐藤くんは確か───衣装着替えの時に私に言ったセリフを言いながら、指輪をはめていたんだっけ……。
守る、一生、守る。
そのセリフが頭の中をよぎって、佐藤くんに触れられた方の手に、自然と力が入ってしまった。
また、言われる。
嘘でも、言ってほしくない言葉を。
そして、誰よりも言ってほしい言葉を。
「あのさ、結城」
突然声を掛けられて、思わずそらしていた視線を動かしてしまった。それが、駄目だったんだ。
佐藤くんは私をまっすぐ見つめていた。私が恥ずかしさと、息苦しさに視線を逸らしていたことも、たぶん知っていたのだろう。
どうして私があの言葉に対してあれほど怒ったのか、佐藤くんは聞かなかった。そして、私がそれを言えないこともきっと、分かっている。
逃げそうになる私の手をぎゅっと握りしめる。その時になって、私は改めて実感してしまう。
……ああ、もうこれ以上気づきたくなかったのにな。意識したく、なかったのにな。
佐藤くんはこんなにも、男の子なんだ。