大好きな君へ。
 「泣き真似しても駄目だよ。ねえ、もう一つのコーヒーゼリーは何処に行ったの?」


(えっ、やっぱり本気かい……)
思わず笑いたくなる気持ちを隠してポーカーフェイスを意識する。




 私は仕方なくネタ話をすることにした。


「だからお腹の中です。うーん、何て言えばいいのかな? さっきのハンバーグふわふわだったでしょ? 実は真ん中にコーヒーゼリーを入れたの。あの肉汁の正体はコーヒーゼリーだったんです」


「えっ、嘘」


「主婦のアイデア……」
言ってしまってから、まだ主婦じゃないと気付く。
でも出てしまったものは仕方ない。


「てっ言うより、私のママの知恵だったかな?」


「ママの知恵? そう言えば優香のママ料理上手だったもんね……」

隼の声がフェードアウトする。
私は思わず隼を見つめた。




 「ごめんね。何時か言わなければいけないと思っていたんだ。あのね、優香のママのことだけど……」

一体隼は何を話すの?
私は自然に身構えていた。


「優香。優香のママが僕と帰らなくなったのはブランコのせいじゃないんだ。僕があの人の本当の子供じゃないと知ったからなんだ」

突然の隼の発言に戸惑った。


(あの人って誰? あの人以外考えられない。でも隼に聞いても良いの?)




 「あの人って、もしかしたら女優の……」

それでも私は言い出していた。


「マネージャーが週刊誌に売ったネタを信じ込んだんだ。優香のママは親父とお袋の恋を優香のパパから聞いて知っていた。だからあの授乳シーンを喜んだ。でも内容に唖然として、僕を遠ざけとしまったんだよ」


「嘘でしょう? ママがそんなことする訳がない」

そう言いながらも、頭の中では考え始めていた。


「そう言えばパパがママに言っていた。『週刊誌の記事なんか信じるな』って……そう言うことだったのね。私は別の話だと勘違いしていたわ。でも隼は結局、あの二人の子供だったんだよね。ママがパパの言葉を信じてくれていたら……」

そう……
私はあんなに苦しまなくても良かったのかも知れない。


「ごめんね。もっと早く話さなければならないって思っていたのに……」


「本当の御両親の結婚発表を待っていたのかな?」

私の発言に隼は頷いた。


「ありがとう隼。御両親に感謝しなければいけないね。それにアメリカで行方不明になっていた本当のお父様を探し出してくれた叔父様にも……」




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