大好きな君へ。
秩父札所巡礼へ
 幾つかの路線を乗り継ぎ、外側のドアが開かない和銅黒谷駅で降りる。
隙間がある場所もあるから慎重に、大きな古銭の前で下車した。


大施食会の後に歩いた駅だったから一瞬戸惑ったけど……


この駅前でドリンクを飲んでいた時にあの電話があったのだ。


叔父が足繁くアメリカに通っていたのは、僕の本当の父を探すためだったなんて……


僕が、両親だと信じてきたニューヨークに住む叔父の兄夫婦の子供じゃなかったなんて。

今でも信じられない。


僕は本当に叔父の兄夫婦を両親だと信じていた。

だから、あの二人の子供だなんて信じられるはずがないんだ。




 何故叔父があのマネージャが隠し撮りした写真を鴨居に置いたのか……

事情を知った今なら判る。


叔父はきっと、本当の父に二人の姿を見せたかったんだ。
だから、アメリカに旅立つ前に撮った写真と抱き合わせて置いたのだろう。


叔父の優しさ。
母の辛さ。
ニューヨークに住む両親の思い。
それらが僕の頭の中で渦を巻く。
どうしょうもないほど僕の魂は揺れていた。
優香には悪いけど、抱いて遣れなかったんだよ。


優香が結夏との間に出来た胎児に名付けてくれた隼人が、本当の僕の父親の名前だったなんて……
偶然にしては上手く出来過ぎている。


だから僕はそれが運命だったと思ったんだ。




 アメリカで行方不明になった恋人探しに母は出掛けた。
その拠点になったのが妹の住むカルフォルニアだったのだ。


その時母は、僕を身籠ったことに気付いたんだ。


母は、妹の不妊症を自分のせいだと思い込んでいた。
だから、要求を飲んでしまったのかも知れない。

だから、妹夫婦の子供を代理出産したと嘘の書類を提出してしまったのだ。




 でも日本では流石にそんな書類を提出する訳にはいかない。
それに日本では、代理出産であろうとなかろうと、出産した人が母なのだ。


だから母は、僕を一旦自分の戸籍に入れてから養子に出すと言う形をとったんだ。

それでも自分の手元におきたかった。
だから再びアメリカに旅立つ妹夫婦を説得したのだ。




 だから僕は子役として母の傍にいたんだ。
でも仕事のない日は叔父に預けられたのだ。


叔父は親友の帰りをあのオンボロアパートで待っていた。
だから撮影のなかった日だけ保育園に預けられたんだ。


叔父も急がしい人だった。
だけど全ての人達の願いを受け入れて僕を育ててくれたのだった。
< 115 / 194 >

この作品をシェア

pagetop