大好きな君へ。
 結夏と肌を合わせたあの日。
僕は何も考えていなかった。
その行為で結夏が生命を宿すとも気付かず……、結夏を抱いていた。


でも僕は真剣だった。
だから結夏に言ったんだ。


『ニューヨークに行って両親の許可を貰おう』
って――。


僕達は未成年だった。
女性は十六歳から、男性は十八歳から親の承諾があれば結婚出来るんだ。


だから結夏待っていた。
ニューヨークの両親の承諾書の記載された婚姻届けを見つめながら、あの部屋で待ち続けていたんだ。


それでは二年近く何も行動を起こさなかった言い訳にもならない。
結局僕は結夏を待っていた振りをしていただけだったのかも知れない。


結夏と結婚するために、体育教師になろうとした。
教育実習を無難にこなし、大学を卒業すればいいと思っていたからだ。
一番てっとり早いと踏んでいたのだ。


収入の安定した公務員なら、結夏の御両親も許してくれるはずだと思ったからだ。

僕はやっぱり優柔不断な男だったかも知れない。




 結夏も僕も初体験だった。
聞かなくても結夏を見ていりゃ判る。

だから尚更結夏に溺れたんだ。


一年近く、男性に後を付けられていた結夏。


何時か何かをされると怯えていた結夏。


だから、結夏は僕に抱き付いてきたんだ。




 『あはははは。ねえ隼、そっちに行っていい?』
あの日見た夢がよみがえる。


ぼくはその日、優香にときめいた。
結夏が忘れられないくせに……

だから結夏にはすまないと思いながらも、優香との再会を運命だと思ってしまったのだった。




 それなに、僕は優香を抱かなかった。
優香もきっと初めてなのだろう。
そう思った時、あの日の結夏が脳裏を掠めた。


その途端怖くなったんだ。
又結夏って呼んでしまいそうだったから……


『又結夏のことを話けどいい?』
言うにことかいて、そんなことを口走っていた。

優香が負担になるようなことを言っていたんだ。




 和銅黒谷駅から札所一番の入口まで約一キロ半。
其処から更に一キロ半ほどの場所に札所一番はあったのだった。
約一時間弱の行程だ。


僕達はコインロッカーを探したけど見つけられないので荷物を全文持って一番札所へと旅立った。

必要最小限だけ身に付けようと思ったけど……


優香はサンドイッチを入れたバックを大事そうに肩に掛けた。


『大事な物が入っているから』

僕がその荷物を持とうとしたら優香が言った。




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