大好きな君へ。
 「遠慮しなくても良いのに……」

まるで泣けって言っているみたいだけど、本当にそう思っていたのだった。


「隼人!!」
隼がそう言ったのは、水子地蔵尊をホンの少しだけかいま見えるトンネルの中だった。


私はそっと隼に寄り添っていた。
本当は抱き締めてやりたい。
でも流石に、巡礼道でそれは出来なかった。

幾ら何でも……
そんなことを此処でしたら、結夏さんに呪われる。
隼人君に嫌われる。


そっとトンネルの先を見やると、水子地蔵達が眩しく写った。


もう一度隼と一緒にそれらを見つめる。

それでも隼は落ち着きを取り戻したようだった。




 隼の言った通りその道の勾配はきつくて、私達に向けた永遠の試練の始まりだと感じた。


隼にとって、果てしなく続く懺悔の道。
それらを一緒に背負うために私は此処に居るのだ。


結夏さんの呪縛から解放してやりたかった。
でも一番……
誰よりも私がそれにこだわっていたのだった。




 札所三十一番観音院。


石で出来た日本一の仁王門に二礼してから潜り抜ける。
二百九十七の階段の登り口には何故か大きな手があった。


「もしかしたら、中の仁王様と同じ大きさなのかな?」

何気に隼が言った。


「そうかも知れないね」

私は仁王門を振り返りながら、それでも目の前にある手の方が大きいのではないのかと考えていた。




 石段のアチコチにピンクの花が綻びかけていた。


「この花は秋海棠と言って、もうじきこの山全体を覆うらしいよ」


「何故そんなこと知っているの? やっぱり」


「やっぱり?」


「うん、やっぱりね。ねえ隼、もしかしたら……」


「優香は何でもお見通しだな」

そう言いながらも隼は、明かに動揺していた。


「バレてたのか……」
苦笑いを浮かべながら隼が言う。
きっと何もかも話してくれる。
そう思った。


「さっきの水子地蔵尊からおかしかったから……でも本当はもっと先から気付いていた。だけどね、隼が話してくれるまで待とうって思ったの」


「流石だね優香。君は僕の最高の理解者だね」


「違う、そんなんじゃない。私は隼が思っているより強かで、エゴイストなの」


「優香がエゴイストなら僕は何なんだ。結夏の安否確認もしないうちから君に落ちていたんだか……」


(落ちていた……)

私はその言葉を聞いて本当に幸せ者だと思っていた。


私が犯してきた、様々な罪を棚に上げたままで……
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