大好きな君へ。
 「だったらまだ諦めることはないだろう?」


「それはそうなんですが、やっといただいた内定を無にする訳にもいかなくて……」


「そりゃそうだな。ま、しっかり頑張ってくれよ」

恩師はそう言ってくれた。




 スポーツ科学科は体育の先生になるための登竜門的な学科だった。
短大では二種。
四年制大学では一種の資格が得られるのだ。


僕は本当は中学の体育の先生になりたかったのだ。


結夏と結婚するためだけではなかった。

僕はやっぱりソフトテニスが大好きだったんだ。


「君は本当はソフトテニスも遣りたいんだろう。この学校では交互にコートを使用しているから、両方出来たのではないのかな?」

気を遣ってくれたのか恩師はそんなことを言ってくれていた。




 そんな時ニュースが入ってきた。

どうやら結夏のストーカーだった男が逮捕されたようだ。

でも聞いて驚いた。
まさかよりによって孔明のとこの兄貴だったなんて……


結夏の命を奪った犯人が……

結夏をボロボロにして流産に追い込んだ男が……

結夏の幼馴染みだったんだ。


そう言えばこの頃良い噂を聞かない。


不良少年達を束ねるリーダーだとか。その少年達を使って万引きさせていたとか……


僕は孔明の兄貴を知っていたから、信じられる訳がなかったのだ。

真面目な人だった。
僕にも優しく接してしてくれた。


僕が公園で仲間に入りそびれていたら手招きして砂場に導いてくれた。

僕達がの親友になるきっかけを作ってくれた人だったんだ。




 でもそんなこと言っている場合ではない。

何故だよ。
結夏がアンタに何をした?


あんなにひどい目によくも合わせられたな。


結夏はアンタの家の真ん前だろう?
良く二年もの間、すまして居られたもんだ。


孔明が結夏を愛している事実も知っていたらしいんだ。


結夏がストーカーされていたことも知っていたらしいんだ。


(えっ!? それじゃ、ストーカーは別に居たってことか?)

僕は何が何だか判らなくなっていた。




 何もかも計画的だったのか?

だったら何故だ?

スキンまで用意して、誰だか判らないようにして襲ったなんて。


結夏が哀れになった。
元々結夏はストーカーに付け狙われていた。
でも太鼓橋で実際に襲われたのが、自分の家の目と鼻の先のいた同級生の兄貴だったなんて……


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