大好きな君へ。
 「あれっ、確かオーナーですよね?」

病室のドアを開けて驚いた。
其処には、ソフトテニスのインストラクターをしていた時にレイクサイドセンターで会ったテニスコートの経営者らしき人物がいたからだ。


「相澤隼君。君はやっぱり私の孫だったんだね」

又又、話が見えない。


どうして僕がオーナーの孫なんだろうか?


ニューヨークにいる両親の身内にはこんな人はいないはずだ。

僕は何が何だか解らず戸惑っていた。




 その時、あの人が入って来た。


「あっ、隼。隼も来ていたの?」

あの人は平然と僕の名前を呼んだ。


「隼って何? ねえ教えて、僕は一体誰の子供なの? ニューヨークにいる両親は僕の何?」

判らないことが多過ぎて理解出来ない。


僕は……
ただ、噂の女優を見つめていた。


 「隼はね。私と隼人さんの間に出来た子供よ。でもそれが判った時、隼人さんはアメリカで行方不明になったの」

僕の体をそっと抱いてくれた時、子供の頃から感じていた母の温もりがした。
だから……
僕はこの人が大好きだったんだ。
だから僕はその思いを無理矢理封印していたのだ。


「隼のアメリカでの戸籍上の両親は兄夫婦だよ。代理母ってことにしたからね。でも、日本では認められてないから……」


「だから、私の子供になってるの。本当は代理母なんてことにするのはいやだった。でも妹は子供が産めないのよ。だから、どうしてもって頼まれたの」


「アメリカの戸籍だけでも良いって兄は言っていたよ。自分達には日本に子供がいるって思うだけで……それだけで……って」


「妹は本当は私から隼を取り上げる気はなかったの。私の……芸能活動に支障をきたすことも考えてくれたのよ」


(だから僕は日本に残されたのか?)

それはニューヨークにいる両親の優しさだと感じていた。




 僕はベッドで横たわっている本当の父の顔を見つめていた。


「さっき寝たところだよ。真二君から息子が生きていたと電話をもらった時は本当に驚いた。まさか記憶喪失になっていたとは……」


「一年くらい前だったかな? こいつが乗っていたキャンピングカーが見つかったって連絡が入ったんだ。すぐに行って確かめたよ」


「その中に居たの?」


「ううん、誰も居なったんだって。だから俺は時々アメリカに行ってこいつの行方を捜していたんだよ」


「事故か何かな?」

僕は何気に発言していた。




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