大好きな君へ。
翔のために
 優香は結夏に嫉妬してその身を焦がしていた。
結夏の三回忌の御供養の日の紫陽花だって、心これに在らず状態だったに違いないんだ。


確かに優香の家には咲いていた。


優香は『カッコ付かない』と言った。

何としてでも結夏の三回忌を陰から見たかったようだ。

でも本当に見たかったのは其処に居るはずの僕だったのだ。


だから頭でっかちでしかも茎の長い、お墓の花差しから零れ落ちてしまう紫陽花を持って来てしまったのだ。


優香は僕を愛してくれている。
結夏を大切に思いながらも、ジェラシーにもがき苦しんでいる。


解っていながら……
優柔不断な僕……


でも、結夏との思い出は消せない。消したくないんだ。




 僕は優香が優しいのをいいことに、甘えきっていたのだった。

それが優香にとって身を切るような辛いことだと判っていながら……


『あはははは』って優香が笑った時、結夏を思い出して思わず抱き締めた。


『結夏』って言いながら……


『辞めてください。私……結夏さんじゃない』

そう優香にはバレバレだったんだ。


『ごめん、優香。でも今のは結夏に言った訳じゃない』

どんなことをしてでもしらを切るつもりだった。

だから誤魔化そうとして苦しい弁解をした。


『そんな言い訳辞めてください。私と彼女が同じ名前だから、気が付かないと思っているらしいけど……そんなの聞いてりゃ解るのよ』

そう、子供の頃から傍に居た優香には僕が考えていることなんかお見通しだったのだ。


それでも僕は卑怯な手を使ったことを認めることなく、強引に押しきってしまったのだった。




 携帯がメールの届いたことを知らせる。
それはさっき帰った孔明からだった。


僕は未だにガラケーと言われるフューチャーフォンだった。
この携帯には結夏との思い出の数々が刻まれている。

だからスマホに変えることが怖いんだ。


僕の一部を剥ぎ取られるような気がして……

結夏との全てを失うような気がして……


だから携帯を開く度にドキンとする。
待受画面は未だに結夏だった……


(何をやってるんだろう……)

僕は未だに結夏のしがらみから抜け出せないでいる。
それどころじゃない。自ら束縛されたがっている。
優香が可哀想だと思いながらも削除出来ずにいたんだ。


(優香ごめんな)

早く読まなくちゃいけないと思いながらも、僕は暫くそのままで結夏を見つめていた。



< 95 / 194 >

この作品をシェア

pagetop