王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「え……モンシロチョウ?」
柔らかな光を帯びた白い羽根が、ほの暗い闇の中で淡く浮き上がる。
ふたりの隙間に割って入った賓客は、すぐに去る気もないらしく、小瓶の蓋の上で羽根を休めることを決めたようだ。
熱に浮かされた思考が一旦停止し、チョウの羽根がピタリと止まるのをぽかんとして見ていたエリナは、突然あることに思い至って声を上げた。
「あっ! 私、小瓶を部屋の中に置いたままだ」
さっきまでの温度がウソのように、キットの腕の中からスルリと抜ける。
そもそも小瓶を月の光に浴びせるためにバルコニーに出ていたのに、今夜はキットが先にそこで待っているのがわかったから、昼間のことを思い出してなんだか嬉しくなってしまって、本来の目的を忘れていた。
あまりに重要なことを思い出したせいで、あっさりと離れたエリナが部屋の中へいそいそと戻って行く。
勝手に熱を上げられてバルコニーに取り残されたキットの方は、急に寂しくなった手のひらを手持ち無沙汰に開いたり閉じたりした。
(……あいつ、なんか言いかけたよな)
空色の双眸を火照らせて唇を震わせたエリナの言葉の先を、聞いてみたい気もするし、聞いてはいけないような気もする。
エリナに煽られた熱が未だに身体の奥で燻るものの、明かりの灯った部屋から小瓶を手にして戻って来た彼女のはにかんだ笑顔を見て、そっと水をかけて火を消すことを選んだ。