王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
この部屋で兄弟揃ってぐずぐずしていても仕方がない。
瑛莉菜がどこへ行ってしまったにしろ、きっと助けを待っているんだ。
「俺がもう一度この実を食うから、同じように消えるかどうか、兄貴はそこで見てて」
「だっ、ダメだ!」
弥生は弾かれたように目を見開き、瑛莉菜のいた場所に座る弟を見た。
稀斗の陰りのない眼差しとはっきりとした声音を聞けば、いくら弥生が止めたところで意思を変えないことはわかっている。
稀斗は意外と頑固なのだ。
それでも、稀斗は大事な弟だ。
大事に想う相手がわけもわからず目の前から消えることに、二度も耐えららるとは思えなかった。
「それなら、俺が食べる! 稀斗はそこで見てろ」
弥生が稀斗の前から青い壺を引き寄せようとすると、ムッと不機嫌な表情になった稀斗が壺を奪うようにして抱え込む。
「ダメ、俺が迎えに行く」
壺を抱えて拗ねる稀斗は、子どもの頃、兄から大事なおもちゃを取られないように守ろうとする弟そのものだ。