王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

キットに真実を聞かされてあれほどショックだったのは、ウィルフレッドに恋をしてしまっていたからだ。

母の言ったことは本当で、そのことに気付いてから、散々悩んでいたこともとんでもなくちっぽけなことに思えて、今夜ここへ来る決心がついた。


今はただ、ウィルフレッドに会って確かめたい。

彼のすべてが嘘だったのか、それともほんの少しはウェンディに心を寄せてくれていたのか。


ウェンディとエドガーを乗せた馬車がランバートの邸の前に停まると、御者がドアを開け、ウェンディは兄の手を取って馬車を降りた。

収穫祭が始まるのは17時頃と聞いていたが、既に大勢の人が集まっていて、次々に邸の中へ吸い込まれて行く。


ウィルフレッドはもう中にいるだろうか。

もし彼がウェンディと同じ気持ちで、もう一度出会う気があるのなら、今夜の収穫祭には必ずやって来るはずだ。


「ウェンディ、その、もう一度言うけど、嫌な思いをしたらすぐに帰っていいんだからね」

「まあ、お兄さま。私、嫌な思いをしてでもお会いしたい方がいるの。さあ、行きましょう」


ウェンディはこれまでの自分を映したかのようにおどおどする兄の腕に手をかけ、顎をツンと上げて胸を張り、コールリッジ伯爵家の令嬢として精一杯立派に見えるよう、まっすぐに前を向いて屋敷へ足を踏み入れた。
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