王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ランバートに連れられてやって来たのは、本館のいちばん端にある簡素な部屋だった。
隣には調理場があり、仕切りも薄いドア一枚なので、続き間のようになっている。
おそらく食品庫のような部屋で、壁には棚が備え付けられていて、小さな部屋の中央には木製のテーブルが置いてある。
普段は使用人や料理人たちしか出入りしないような場所であったが、今夜は屋敷中のどこよりも厳重に警備され、ランバートの私兵たちがそこかしこに立っていた。
エリナが狭く細々しているが、よく整理整頓された部屋をぐるりと見回したとき、奥にある勝手口のドアが開いて、数人の侍女が警備兵を引き連れて部屋の中に入って来た。
エリナは思わず息を飲む。
3番目に部屋に入って来た恰幅のいい侍女は、腕に大きなカゴを抱えている。
「ここへ」
ランバートの指示で侍女がそのカゴを恭しくテーブルの上に置き、礼をして離れると、ランバートはエリナの手を引き、そのカゴの前にそっと押しやった。
エリナの後ろに立ち、肩の上に両手をのせると、耳元で妖しく囁く。
「何色をしている?」
「……緋色。スカーレット」
目の前のカゴに視線を奪われて動けないエリナは、ランバートに問われて、操られたようにその色を口にした。