王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「俺を怒らせて楽しいか? てめーは本心隠すのに必死で、こんなことできねえもんな」
エリナにはとっさにキットの言っていることが理解できなかったが、ランバートにはそれで通じているらしい。
さっきまで薄ら笑いを浮かべていたはずの彼は無表情で、キットのされるがままになっている。
浅い褐色の双眸には、エリナには読み取れない複雑な感情が渦巻いているようにも見える。
「お前の事情も目的も、俺の知ったことかよ。そんなのはどうだっていいんだよ」
触れたキットの腕に、さらに力がこもったのがわかった。
キットは切れ長の瞳に怒りの炎を宿し、それをまっすぐにランバートへ向けている。
「こいつのこと、本気で好きでもねえくせに、二度と軽々しく触るな!」
キットと出会ったのはほんの数日前だが、その日数が示すよりも濃い時間を過ごし、彼を見つめてきたつもりだった。
それでもキットがこんなふうに大声で怒りを露わにするところなど、普段の過保護で屈託のない笑みを浮かべる彼からは想像できるものではなく、エリナはその深い青色の瞳に揺れる赤い炎に息を飲んだ。
青紫色の海の底で、端のほうに赤い炎がメラメラと燃えている。