王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
エリナが慌てて身体を起こしてスカートの裾を整える間に、キットは引き剥がしたランバートの胸ぐらを掴み、そのまま引き上げて立たせた。
そしてさっきまでエリナとランバートが中庭を見下ろしていた窓に、ランバートの背中を勢い良く押し付ける。
「言ったよな? 俺に許可なくエリナに触れることは禁じると」
キットの声は低く地を這うようで、エリナに向けられた背中は怒りで小刻みに震えていた。
ふたりが並ぶと実際に背が高いのはキットのほうであったが、体躯のしっかりとしたランバートと比べると、キットのほうが小柄に見える。
もっとも、その腕や胸板が見た目ほど軟弱ではなく、むしろ強くて優しい安心感をもたらすものだということを、エリナは既に知っているのだが。
(……って、そうじゃなくて!)
一瞬ベッドの上でその光景に圧倒されてしまっていたエリナだが、慌てて飛び降り、ランバートの胸元をキツく締め上げる腕に縋り付いた。
「キッ……殿下、違うんです! 彼に、その、私をどうこうしようという気はなくて、ただ殿下を怒らせようと思っただけで……」
「だからなんだよ」
「え?」
キットは腕に縋り付くエリナに構わず、目の前のランバートをただキツく睨み付けている。