王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
それに、ランバートとふたりで中庭を見下ろしていたときには火事の気配などなかったのに、ベッドに押し倒されてからほんの少しの間目を放した隙に屋敷にまで燃え移っていた。
そして今は、調理場にまで……。
「あ……待って!」
エリナはハッとして鋭い声を上げ、キットの手をすり抜けると、ふたりの後ろを歩いていたランバートを振り返った。
勢い余って胸に縋り付くのを、ランバートが怪訝な顔で受け止める。
「アレは……ラズベリーはまだ棚の中に?」
「ああ、あの近くを警備していた者にはすぐに避難するよう、アリスが指示を出したと聞いた。おそらくまだ棚の中だろうが、そんなものはもう……おいっ!」
ランバートの言葉を最後まで聞かないまま、彼の制止を振り切って反対方向へ走り出す。
「エリナ! 待て!」
キットが切羽詰まった声で名前を呼ぶのが背中越しに聞こえたが、それも無視してさっきランバートに連れられた道を一目散に駆けて行った。
あそこにはまだ、ラズベリーがある。
エリナはラズベリーの実をひとつしかもらっていないし、これはキットのためのものだ。
棚の中のものがなければ、エリナはあと13年は確実に小説に閉じ込められたままになってしまう。