王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
そして何より、理由はわからないが、もしエリナの想像が正しければ彼女はまだそこにいる気がする。
調理場までの道を完璧に覚えている自信はなかったのだが、濃くなる煙とごうごうと渦巻く炎の音に導かれ、一層暗い方へと進めば、迷うことはなかった。
* * *
調理場の壁や天井は燃えていたが、炎と煙の中をかろうじて進むことはできる。
エリナがラズベリーが置いてある小さな部屋へ飛び込むと、炎の中に人影がゆらりと揺れた。
部屋の中はすでに火が燃え広がり、これ以上中へ入るのは困難だ。
「アリス!? そこで何をしている!」
キットと共にエリナの後を追ってきたランバートが、そこに立ち尽くす彼女を見つけて驚きの声を上げた。
普段は重低音の落ち着いた彼の声が、悲鳴のように響いて炎に包まれる。
「はやくこっちへ来い!」
ランバートが懇願するように、燃え盛る火の向こう側に立つアリスへ手を伸ばす。
表情を無くしてただ立ち尽くしていたアリスは、ランバートの姿を認めた瞬間、幼い女の子のように泣き出しそうな顔をした。
「わ、私……ラズベリーもこのお屋敷も、ランバートを縛り付けるから……みんなが、そのせいで……」