王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ゆっくりと膝を折り、ジッと自分の顔を見つめてみる。
背中まである黒髪は編み込みにして低い位置でお団子になっていたが、くるんとしたまつ毛も淡く色づく頬も、紅い唇もそのままだ。
ただ彼女の容姿で変わっていたのは、濃い茶色の瞳の色。
柔らかい光を帯びていたその虹彩は、夏の空を切り取ったかのような、明るいブルーへと変化していた。
彼女がその瞳の色に見入っていると、カラスがパタパタと飛んできてすぐ隣に着地した。
水溜り越しに、真っ黒な瞳が彼女を射る。
「名前を言ってごらん。俺が付けた、この世界でのきみの名前だよ」
カラスがもう一度名前を問うと、彼女の頭の中にはやはりふたつの名前が浮かんできたが、今度彼女の唇からこぼれ落ちたのは別の名前だった。
「……エリナ・オースティン。愛称はエリーだと思う。みんな私をそう呼んでる」
「うむ、正解!」
彼女がーーエリナがさくらんぼのように色づく唇を震わせて小さく言うと、カラスの姿をした弥生は嬉しそうに身体を震わせる。
しかしエリナは大きな空色の瞳に涙を溜めて、随分と小さくなってしまった担当作家を見下ろした。