王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「でもっ……どうしよう! 私、元の世界に戻れる……?」


涙の膜が張る瞳はたちまち深い海の色になり、エリナは突然ひとりぼっちにされた幼い少女のように瞳を揺らす。


これまで弥生の暴挙に腹を立てることこそあれど、瑛莉菜が涙を見せることなどなかった。

どちらかと言えば意地っ張りで、強がりな性格である。

本当は弥生に泣き顔を見られるなんて恥ずかしくて堪らないのだが、ここまで違和感なく溶け込んでしまうと、さすがに不安を隠しきれない。


弥生は彼女のそんな姿をはじめて目にして、小さな身体を慌てて揺らした。


「もちろん、そのためにここへ来たんだよ! きみを元の世界に戻すための作戦会議をしないと」


なぜかカラスの姿をしている弥生がおろおろと羽を動かすのを見て、エリナは無性に泣きたくなったが、必死に堪えて目の端に浮かぶ涙を拭った。

泣くのはまだはやい。

自分でなんとかしなくては、いくらロマンス小説とはいえ、白馬の王子様が現実の世界から彼女を迎えにやってくることなどないのだから。


「いいかい、俺はこの世界の創造者だから、つまり神様ってことなんだ。だから、俺のイメージ通りにちゃんと物語が完結すればきっと元に戻れる」
< 27 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop