王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
男は怯えた猫にするように、ゆっくりゆっくりウェンディに近づき、繊細につくられた小さな顔を覗き込んだ。
男の瞳は、仮面の奥で金色に光っているように見える。
月のせいだろうか。
(どうしよう……)
男は仮面で目元を覆ったままだが、ウェンディの仮面は震える右手が握りしめている。
ウェンディはこの男性に見覚えはなかったが、相手が名乗れば自分も名乗らなければいけない。
仮面は自分でとったのだ。
もし自分がコールリッジ家の娘だと知られたら、目の前の男性に何と思われるか不安で、今にも逃げ出したい気分だった。
兄や父以外の男性と、こんなところでふたりきりになったことなどない。
どうすればいいのかと戸惑うウェンディの前に、男が左手を差し出した。
「一緒に踊っていただけますか?」
「……え?」
「ひとりで舞踏会を抜け出したりして、踊らないなんてもったいない。とてもお上手でしたよ」
男の形のいい唇が、意地悪そうに微笑む。
「それから、鼻唄のほうも」