王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「あっ……」
からかわれているとわかるのに、ウェンディの心臓は妙なくすぐったさにドキドキと脈を打ち始める。
彼女の透き通るほど白い肌が淡く染め上がるのを、男は黙って見つめていた。
しかし、少しも不快感はない。
(一緒に踊ろうだなんて……変な人)
どうしてこんなところにひとりでいたのかと、あれこれ聞かれるかと思った。
自分から仮面を外していたのだから、身元を聞かれたっておかしくないと思っていた。
それなのに、男がウェンディに聞いたのはそのどちらでもない。
疎外感を感じてここへ逃げてきたウェンディを見つけたその男は、ここでふたりきりで踊ることを選んでくれた。
差し出された左手に操られるように自分の右手を持ち上げて、外した仮面を握ったままだったことに気付いた。
「あっ、ご、ごめんなさい。今、ちゃんと……きゃっ!」
慌てて付け直そうとした仮面は男の手にかすめ取られ、そのまま手首を掴まれて引き寄せられた。
突然近付いた距離に驚いて背の高い男を振り仰げば、微かに甘い薔薇のような香りがする。