泣きたい夜には…~Hitomi~



弱々しい声、だけど彼女の凛とした目は妻であり母親そのもの。


もう向井先生に恋愛の情はない。


でも、彼女には叶わないと思った。


彼女の人柄や性格はわからないけれど、直感的にそう思えた。


「大丈夫です。ご主人とも約束しましたから赤ちゃんは必ず助けます。だから、向井さんも頑張ってくださいね」


そう言うと、彼女は小さく頷いた。


彼女のお腹に顔を近づけ、


「早くママに会おうね!」


そう声をかけた。



やがて、手術が始まった。


「メス!」


腹壁を切開し、腹膜を開けると胎児を宿した大きな子宮の表面が見えた。


「クーパー!」


子宮漿膜をクーパーという先の丸いハサミで切開し、剥がした後、慎重に子宮筋層を切開していくと羊水の入った


卵膜が見えてきた。


卵膜を通して胎児の頭が透けて見えてきた。


あと少し


ママも赤ちゃんも頑張れ!!!!



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