泣きたい夜には…~Hitomi~



えっ……


今、慎吾は何て言ったの?


今、何が起きたの?


今、結婚……て言った?


心臓が壊れてしまうくらいに激しく動いてどうにかなってしまいそうだ。


何か言わなきゃ。


でも、驚きすぎて言葉が出てこない。


もう、肝心な時に私はヘタレなんだから……。


「それ、本当……?」


信じられない。


お父さんが結婚なんて言ったから責任取ろうとしているの?


ううん、慎吾は絶対そんなことをする人ではない。


絶対しないから。


慎吾は優しい笑みを浮かべて、


「本当さ、ひとみが帰国したらプロポーズするとずっと前から決めていた」


ジャケットのポケットから小さな箱を取り出すと、私の手を取り、手のひらに乗せた。


この中に慎吾の気持ちが、慎吾の全てが入っているんだ。


「開けてみて」


緊張を帯びた慎吾の声に、震える手で箱を開けた。


ダイヤのついた慎吾らしいシンプルなデザインの指輪を見た瞬間、涙が零れ落ちた。



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