輪廻
帰宅しても眠れなかった。
今日は満月だった。

月が私を照らしていると思ったのは、三角のような月。
それだけ。

すると、ドアから母親の悲鳴と男の悲鳴と、妹の悲鳴が聞こえた。
驚き私は階段を急いで降りた。

血塗れの男が、叫んだ。

「りんね!!ぼくだ!!」

母親はぐったりしながら男を見上げ、その男を憎い顔で睨んでから白目を向いた。
妹は多分もう、息をしてなかった。

私は何も怖くなかった。
何故だろう。
こんな光景の中。
それから私を呼ぶ声。

男が父を刺したと思う、その返り血を浴びて満足気に見下した。

父親が、情けない姿で男に謝った。

「天成…ごめんな…」

男は、とある写真を、未だ息絶えていない父親に振りかざして言った。

男「さっき母親を刺した。やっとわかった。これで総てが繋がったんだ。きっとお前は、何度も繰り返すから止めに来たんだよ。…なぁ?もっと早くに解っていればな。俺の母親が、りんねの母親だったなんて。いつも、愛されてない感じがしていたよ。だって、母親はお前に棄てられてからまるで暗闇の中に一瞬で閉じ込められた様な気がした空間へ変わった。」

父親は涙を零しながら、やがて息を引き取った。

刃物を向けた男がこちらに向かって歩く。
私は何にも疑う余地もない。

鈴音「天成…君…。」

天成「…ごめんね。鈴音…。君のママをずっと永遠に還らなくしてしまった。」

ううん。
いいんだよ。


行こうか、あの公園へ。

ねぇ、飛べる?
パパが教えてくれた。

飛べるさ。
…ママが最期に云っていたよ。
もう一度、鈴音に合わせろと。
僕は無視したんだ。

どうして?

もう一つの秘密。
君は輪廻って名前をつけようとされた。
ママが嫌がったんだ。
…研究していたらしい。
宇宙のこと。
この男はずっとね。

うん、…いつもだったよ。
この家でもそうだった。


そうだろうね。
僕は転生。
聞いたことあるかい?

私は血塗れの女を指差し言った。

この人は、飛行機が嫌いなの。
元々、パパが浮気する前は『転生』君、だったみたいだね。

僕が研究してるのも、『ぼくたちの』父親も、本当は宇宙研究をしてたんだよ。

うん…転生。
呼んだら来てくれたんだね。

それは、運命。

なんて愛おしいんだろう。
僕だけの前で
いつまでも鳴いてくれ。

りん、りん、りん。
いつまでも、鳴らしてて。
僕はやっと、笑えた。
僕は初めて、笑った。

鈴の音。

いつまでも──────


【終】



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