不機嫌なアルバトロス

「帰ろ…」



呟いて踵を返した所で。



「櫻田」



後ろから声が掛かった。



「…藤代くん」



走ってきたのか、藤代くんは少し息を切らしている。




「今日は、ありがとう。」




私が忘年会に無事に参加できたのも、藤代くんのお陰だ。




「いや…二次会、行かないの?」



「…うん、明日も仕事だし。藤代くん幹事なんでしょ?早く行かないと皆に追いつけないよ。」




私がそう言っても、藤代くんはその場を動こうとしない。




「…どうしたの?」




不思議に思って訊ねると、藤代くんは意を決したように私をまっすぐに見た。




「あのさ。俺で良かったら、いつでも…胸貸すから。」




「え?」




思っても見なかった不意打ちな言葉に私は驚く。



一瞬どんな意味か、考えられなかった。


「やだなぁ。私のことなんて放っておきなって。悪名高き尻軽女ですよ?」




からかうように言うと、藤代くんは少しむっとした表情をした。


中々彼のこういった顔は珍しい。




「そういう言い方はしない方が良い」



あれ。


もしかして、今。


私怒られた?




「俺、櫻田のこと、そういう風に思ったことないから。言いたかったのは…吐き出す相手にはなるってこと。じゃ気をつけて帰れよ。」




私の返事を待たずに、藤代くんは言うだけ言って、元来た道を走って戻っていった。



この感じを、私は知ってる。


男の子が優しい。


頼られたいって言ってくれてる。



もしかしたら、すごく私のことを好きでいてくれてるかもしれない。



うんと頷けば、抱き締めてくれるかもしれない。



いつからかはわからないけど、私を見ていてくれたのかもしれない。




このヒトと一緒になったら、幸せが待ってるかもしれない。




もう見えなくなった人影に背を向けて、駅までの道のりを歩き出しながら、私は俯いて歩き出す。




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