不機嫌なアルバトロス
時計の針は22時を指している。
テレビをつける気は更々起きない。
私はまた突っ伏して、片手で携帯をいじりながら、ふと思う。
―電話くらい、かけたっていいかな。
それともやっぱりそれはしない方がいいんだろうか。
中堀さんにさよならは言われても、やっぱりちょっと伝えたいことがありましたって言ったらどうかな。
往生際が悪いかな。
だけど、声が聞きたいな。
もう一度櫻田花音と呼ばれたい。
いや、花音って呼ばれたいな。
名前だけでは一度も呼ばれなかった。
他は皆、花音ちゃんって呼んでくれるのに。
―いいや、かけちゃおう。一回くらい、間違えましたって言ったって通用するよ。うん。
酔えてない気がしたけど、普段とは違う決断力の強さと、後先を考えることのできない思考に、やっぱり確実に酔ってるんだなと自覚する。
佐藤一哉の名前はしっかりと電話帳に残っていて、それを見るだけで気分が高揚する。
「えいっ」
大した迷いもなく、私は通話ボタンを押した。