薄紅
と、あれこれ悩んでいると、彼の呼吸が

しだいに穏やかになっていく。

え………まさか……死……

さっきとは違う焦りと迷い。

首筋に氷を当てられたように感じた。

だけど彼は辛そうにかたく閉じていた瞼を

ゆっくり開いて、まだ火照っている顔を

照れ笑いに近い笑みに変えた。

「……ごめ…んね、驚かしちゃって…」

「え……そんなこと、全然……

それより……」

彼の声から、喉が乾いているのかな、と

思った私は、飲もうと思って自販機で

買ったお茶を彼に差し出した。

「これ、どうぞ……」

彼は驚いたような顔をして、

「ありがとう」

と笑った。奥の窓から差し込む夕日に、

「もう体は大丈夫なんですか?

さっきは、すごい辛そうでしたけど……何

か、病気とか……」

さすがに初対面で踏み込み過ぎかな、

と恥ずかしくなって俯くと、

彼からの返事は思いの他あっさりしたもの

だった。
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