いろはにほへと
父と目が合う事3秒。
「ひなのさん。あなたはどうしたいんですか?」
突然話を振られた私は、動揺を隠せない。
「え、えと…」
狼狽する私を父は優しく見つめる。
「…去年の夏、姫子さんのお家の近くで、彼等に出逢ったんですか?」
やがて先程の質問とは別のことを問う。
「僕は心配してたんです。あれからひなのさんの様子はずっとおかしかったから。けれど同時に少しだけ―」
眼鏡越しの父の目はさらに柔らかくなる。
「楽しそうにも見えました。」
「―え?」
意外な父の言葉に、私は俯いた顔を上げた。
「僕はそのままのひなのさんが好きだけど、自分以外の存在を知ることの楽しみも必要だと思います。だから、あなたがやりたいのならやってみるといい。」
父が断ってくれると考えていた期待はあっさりと打ち砕かれた。
「但し、芸能界というものの線引きはしっかりして、やるのなら、今回が最初で最後にしなさい。」
一度きりという、制限を付して。