Again
「久美が羨ましく見えちゃった」





素直にそう言った。





「普通の結婚じゃないことは分かってる。でも、名波さんは、葵のことが大切だよ。ものすごく」

「うん」

「下世話なことをいうようだけど、名波さんはお金を持っているし、稼いでもいる。だから、家政婦さんを雇ってもらってもいいし、ブランド品で全身を固めたっていい。それくらいのことで怒る器の小さな人じゃないでしょう?」

「それも、分かってる」

「遠慮しすぎるの。もっと自分をさらけ出さなきゃ。旅行はいい機会。新婚旅行だし、たくさん強請りなさい」

「そうしてみる」





長女ということもあるのだろうか。甘えたり、強請ったりすることが得意ではない。しかし、葵のことを思い、助言する久美の言葉は、受け止めたい。



不器用なだけで、仁の温かな人柄は既にわかっている。あとは、二人の照れを無くすだけだ。異国の地で解放的な気分になるだろうフランスが、そのチャンスだ。



買い物を楽しみ、お腹も膨れ満足して家に着いた葵は、シンとした広すぎる家を見渡す。



いつも葵が先に家に着き、仁の帰りが遅い時は一人で寝てしまうのだから、寂しいことはないはずなのに、仁が帰って来ないと言う現実は、以外にも、葵に予想以上の寂しさをもたらした。





「今日から仁さんがいないんだな。実家に帰ろうかなあ」





テレビをつけ、ソファに座る。座った自分の脇に買い物袋とバッグを置く。戦利品ともいえる買った下着を取り出す。葵は、かなりの時間を掛けて下着を選び、久美には、もういい加減お腹が空いた。とせっつかれる程だった。



結局葵は、旅行する日程分の下着をセットで買い、更にキャミソールまで買った。それこそ大枚をはたいて買ったのだ。流石の久美も計算をしながら、「そんなに買って大丈夫なのか。さすが社長夫人」と心配とからかわれもした。



意外にも、一つを買うまでは値札を気にしていたが、そのうちにデザインを重視して値段を気にすることもなくなっていた。これは嫁入り道具だ。そう考えた。葵が嫁いでくるときには既にマンションと家具は用意され、白無垢から、披露宴でのドレスまで全て名波家で支払ってくれた。葵は懐を気にすることもなく結婚できたわけである。



会計をしてみれば、店員にご丁寧にサービスを受けても良い程の金額になった。葵には、無縁の見栄を張ることもできた。





「こうしてみると、すごい。いやあ、買ってよかったなあ。レースがきれい」





一人で感心しながら、おもむろに洋服を脱ぎだした。一人ファッションショーの始まりだ。





「こうしていると、かなりナニを期待しているみたい」





下着を替えながらふと考える。確かに期待はしている。でも、下着を見る程の余裕はあるのか。今までの経験が走馬灯のように頭を駆け巡る。かといってそんなに大層な経験はない。





「ま、いいか。暫く下着なんて買ってなかったからそれで良しとしよう」





値札を丁寧に取り、まとめる。こんなにわくわくした気分はいつ以来だろう。



仕事中だった為にすぐに返信が出来なかったけれど、出発前には仁からメールが来ていた。これから発つことと、気を付けてくるように。時差の関係もあるけれど、出来るだけ連絡はすると打ってあった。



たったこれだけの事務的なメールであったけれど、葵は何度もメールを読み返した。短い文面でも仁の気遣いが嬉しかった。





「さ、お風呂に入って寝よう」





仁がいない数日は主婦業も休み、独身に戻り羽を伸ばそう。パリに出発するまでにそわそわ、わくわくした気分を楽しみながら過ごそう。そうすれば、寂しさも少しは紛らわすことも出来る。切り替えが肝心。そう思いながら、仁のいない一日が終わった。



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