現実は小説よりきなり
「ねぇ、もういいじゃん、彼女の事は。大丈夫だって言ってたんだしぃ。カラオケ行こうよぉ」
痺れを切らしたように俺の隣にやって来た聖子は甘えた声を出して俺の腕に自慢のFカップを押し付けた。
上目使いに色っぽく男を誘うのがこいつの技だ。
「ま、確かにな。行こうぜ」
と歩き出したのは遊佐。
「そうね。ここに何時までも居ても仕方ないわね」
遊佐に並んで階段を降り始めた霞。
「ま、行こうか。気になるなら明日教室にでも行ってみなよ」
と美樹の肩をポンと叩いたのは日向。
「あ、うん。そうする」
頷いて日向と並んで階段を降り始めた美樹。
「私達も行こうよぉ」
甘えた声で俺を見上げた聖子に腕を引かれて俺も足を動かした。
階段の踊り場に降りてそこにあった窓から不意に外を見下ろした。
するとそこには木下嵐と友達の姿。
校門で手を振って別れて歩き出すのが見えた。
友達二人と別れた木下嵐は足を引きずりながら、寮とは反対方向へと向かって歩き出す。
「...チッ」
あいつ、足怪我してんじゃねぇかよ。
何が大丈夫だ。
俺達の前を去るまでは普通に歩いてたところから見て、美樹がぶつかった時に足首を挫いたんだと推測できる。
何、痩せ我慢してんだよ。
何時もなら、他人が怪我してても気になんねぇのに、なんだか自棄に苛立った。
っうか、あいつ、痛めた足で何処へ行くつもりだよ。
足早に歩こうとしてるらしい木下嵐を見つめながら疑問に思う。
「ねぇ、琉希也ぁ。どうしたのぉ」
窓の前に立ち止まったままの俺を見上げて不思議そうに顔を傾ける聖子。
身長150センチの聖子には木下嵐の姿は写ってねぇ。
「あ、悪い。用事思い出した」
俺はそう言うと腕に絡み付く聖子の腕を引き剥がすと、足早し階段を掛け降りる。
「えっ?琉希也」
突然の事に驚いた声で俺を呼ぶ聖子。
「悪いけど、カラオケはお前らで行ってこいよ」
一階まで掛け降りた俺は振り返ってそう告げる。
「おう、分かった。じゃ、また寮でな」
手を上げてそう言ったのは遊佐。
目の端に不服そうにしかめっ面をする聖子が写ったけど無視して背を向けた。
大急ぎで昇降口で靴を履き替えた俺は、どうしてだか木下嵐を追い掛けた。