現実は小説よりきなり
「お好きな席にどうぞ」
と言われ、
「あの場所」
とついたての手前の席を指差す。
「はい。ではご案内します」
頬を赤らめた店員は俺を案内するために歩き出す。
俺は無言のまま、木下嵐の動きを視界に捉えて店員の後ろをついていく。
チラチラ店内の客が俺を見てくるが、ここは無視で良いだろ。
今はそれどころじゃねぇからな。
木下嵐とあの男の関係が気になって仕方ねぇし。
店員に案内されて目的のテーブルに着くと、ついたてを背に椅子に座った。
「こちらがメニューです。本日のお薦めは...」
「アメリカン一つ」
メニューを差し出しながら俺に色目を使ってくる店員を視界に捉える事もなく注文を告げる。
「えっ?...あ、はい。かしこまりました」
差し出したメニューを押し返された店員は、バツが悪そうに目を泳がせながらも頭を下げてカウンターへと戻っていく。
はぁ...女って面倒臭せぇ。
椅子の背もたれに体を預けて背後のテーブルの会話に耳を澄ました。
騒がしい店内、思うようには声は聞き取れなくて、思わず舌打ちする。
「...チッ、煩せぇな」
不機嫌オーラを出しまくる俺に今まで興味本意の視線を向けていた連中は、慌てて視線を逸らしてく。
程なくして運ばれてきた珈琲をブラックで飲みながらも、耳だけはダンボにした。
つうか、俺...ヤバくね?
マジでストーカーじゃねぇかよ。
はぁ...何やってんだ。
情けないと肩を竦める。
「嵐ちゃん、足どうしたの?」
背後から聞こえててた男の声に耳をそばだてた。
「あ、学校で捻ったみたいで。待ち合わせに遅れちゃってすみません」
敬語使ってんのか?
じゃあ、彼氏って訳でも無さそうだな。
ホッとした俺は単純だな。
「いやいや、10分ぐらいどうってことないよ。それより病院に行かなくて大丈夫?」
「あ、この帰りに行こうと思ってます。思ってたより重症ぽくて」
苦笑いした声が聞こえた。
つうか、そんなにヤバイくせに大丈夫とか無理しやがって。
「そっか。じゃ、早く話を進めようね」
男の声と共にカサカサと紙の擦れる音がした。
「はい。すいません」
「良いよ良いよ。嵐ちゃんにはいつもお世話になってるからね。このプロットなんだけど見てくれる。」
「はい」
木下嵐の返事。
多分何かが手渡されたんだろう。