ココロトタマシイ


****


「珍しいね。
君の方から俺を訪ねてくるなんて」





別に来たくて来たわけじゃない。

そう言いたいのをぐっと喉の奥に押し込めて、僕は静かに声を発した。





「……お久しぶりです」





…できることなら、もう会いたくはなかった。


けど、そんなことは無理だと分かってる。


無理だと分かっているからこそ、できるだけ会う回数を減らしたいと思っていた。





「5年ぶり、かな?
いやー、ずいぶん男前になったじゃないか」





軽口を叩きながら楽しそうに笑う彼は、5年前とちっとも変わっていない。





「…どうも」





変わってないと言っても、容姿が変わっていないわけじゃない。


前に比べると、大人びた顔立ちになったし、髪型だって少し変わった。




変わっていないのは、中身だ。




「さて、と…今日はどうしたの?
俺に何か用でもあるのかい?」



…本当は分かってるくせに。

わざと尋ねてくるのは、僕の口から言わせたいからなのか。

そう考えるとなかなか口を開くことができない。

そんな僕を見て、彼は口元だけに笑みを浮かべる。

そしてわざとらしく、無邪気な子供のように言葉を発した。


「あれ、そんなに言いにくいこと?

・・
また誰か死にそうとか?」


「っ…!!」


心臓が大きく跳ねた。

それと同時に強い殺意が芽生える。

この時殴りかからなかった自分は、本当にすごいと思う。


「ははは、冗談だよ。
そんなに睨むなって」


両手を顔の位置まで上げて降参の意を見せながら、

彼は実に愉快そうに笑うと、何かを僕に放り投げる。


「はい、お望みのもの。
くれぐれも無くさないようにね。世界に一つしかないんだから。

あぁ、部屋は5年前と変わってないから」


彼は手短に用件だけを告げると、それじゃ、と言って背を向けた。


その後ろ姿を蹴り飛ばしてやりたい衝動にかられながらも、

僕は目的地を目指して歩き始めた。


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