ココロトタマシイ
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「珍しいね。
君の方から俺を訪ねてくるなんて」
別に来たくて来たわけじゃない。
そう言いたいのをぐっと喉の奥に押し込めて、僕は静かに声を発した。
「……お久しぶりです」
…できることなら、もう会いたくはなかった。
けど、そんなことは無理だと分かってる。
無理だと分かっているからこそ、できるだけ会う回数を減らしたいと思っていた。
「5年ぶり、かな?
いやー、ずいぶん男前になったじゃないか」
軽口を叩きながら楽しそうに笑う彼は、5年前とちっとも変わっていない。
「…どうも」
変わってないと言っても、容姿が変わっていないわけじゃない。
前に比べると、大人びた顔立ちになったし、髪型だって少し変わった。
変わっていないのは、中身だ。
「さて、と…今日はどうしたの?
俺に何か用でもあるのかい?」
…本当は分かってるくせに。
わざと尋ねてくるのは、僕の口から言わせたいからなのか。
そう考えるとなかなか口を開くことができない。
そんな僕を見て、彼は口元だけに笑みを浮かべる。
そしてわざとらしく、無邪気な子供のように言葉を発した。
「あれ、そんなに言いにくいこと?
・・
また誰か死にそうとか?」
「っ…!!」
心臓が大きく跳ねた。
それと同時に強い殺意が芽生える。
この時殴りかからなかった自分は、本当にすごいと思う。
「ははは、冗談だよ。
そんなに睨むなって」
両手を顔の位置まで上げて降参の意を見せながら、
彼は実に愉快そうに笑うと、何かを僕に放り投げる。
「はい、お望みのもの。
くれぐれも無くさないようにね。世界に一つしかないんだから。
あぁ、部屋は5年前と変わってないから」
彼は手短に用件だけを告げると、それじゃ、と言って背を向けた。
その後ろ姿を蹴り飛ばしてやりたい衝動にかられながらも、
僕は目的地を目指して歩き始めた。