ココロトタマシイ


コツン、コツンと靴の音が廊下に響く。


――ここも全然変わってない。

病院を思わせる真っ白な壁と床。

いくつか並ぶ黒い扉。

蛍光灯が光る低い天井。




ここだ…。

突き当たりを右に曲がって、さらに左に曲がって真っ直ぐ行った突き当たりの扉。



ここに、彼女はいる。






僕は大きく深呼吸すると、震える手でカードキーを差し込む。


すると、赤く光っていたランプが緑に変わって。

カチャリ、と中で鍵が開く音がした。


そして、扉が自動的にスライドする。






薄暗い部屋に、微かに聞こえるモーター音。

部屋の中央には、いくつもの管が繋がった先の丸い鉄の棺桶のようなもの。

それに近付くと、コポコポと小さな水音がする。


淡く緑色に光るそれの中には、一人の少女が静かに目を閉じていた。


「……由紀」


優しく少女の名前を呼ぶ。

しかし、当然反応はない。


「ごめん…」


ぽつりと呟いた言葉は、静かな部屋にむなしく響いた。

目の前の少女は、ただ静かに眠り続けるだけ。


「ごめん、な……」


僕は、ぎゅっと唇を噛み締める。


一体、いつになったら目覚めさせることができるのだろう。


――あの忌まわしい出来事からもう5年。

彼女は、5年前とちっとも変わらない姿のまま。


「……もう少し、だと思うから」


僕は胸のペンダントを強く握り締める。

魂はだいぶ溜まった。

あとは、あいつが満足するかどうか…。


「そんなに強く握ったら壊れちゃうよ」


「………っ!」


突如背後から聞こえた声に振り返ると。

たった今思い浮かべていた人物が、口元だけに笑みを浮かべて立っていた。


< 49 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop