僕らのはなし。①


「綺麗なお店。」
本当に行くつもりはなかったんだけど、ホテルから出て車に乗って暫くすると、やって来たのは落ち着いた暗めの照明とお洒落なインテリアのレストランだった。

「でも、ガラガラ…。」
「追い出した。」
「…何で??」
「貸し切った。
朝まで好きにしろ。」
店内を見渡し呟くようにそう言うと、伊崎は平然とそう言った。

「好きにって?」
「泣こうが、喚こうが自由だって事だ。
憂さ晴らしに殴りたいなら、外の大男を呼んでやる。」
「私が何で??」
カウンターの前の席に座り、確かに外にかなり丈夫そうな大きなおじさんが2人居たのを思い出しながらも、何でこんな事してくれるのか分かんなくて聞いてみる。


「2人を見てショックだったんだろ…。」
「冗談…私なんか勝負にすらならないよ。
美人でもないし、頭も大して良くないし、家はごくごく普通の一般家庭。」
「スタイルも性格も良くないしな。」
「そうよ。
だから、嫉妬なんてするわけないじゃない。」
私の自虐的な言葉に続いて、伊崎も私の短所を言った。

でも、分かってても自分で言うのと他人に言われるのは訳が違う。
少しイラッとして、声を大きめにしてそう返した。


「だから…最初からそんな資格すらないの。」
「まぁ、欠点だらけだけどつまんなくはないぞ。
資格ありだ。」
「えっ?」
思いがけない言葉に、それしか言葉が出ない。

「時雨は…きっと先に会ってたら、お前を好きになってた。」
「それ本気で言ってる?」
何で伊崎に慰められてんのかも分かんないけど、あり得ない言葉にそう聞き返した。


「美人でもないし、金持ちでもないけど、お前は俺様が生まれて初めて認めた女だからな。
資格は十分だ。」
伊崎は真っ直ぐ私の目を真剣な顔で見てそう言った。


何か最近伊崎に向けられるこういう視線とか言葉とか…どうして良いのか分からない。

伊崎も言った後でフッと視線を逸らし、咳払いしてトイレに行くと言って足早に行ってしまった。


「ふぅ…何か暑いですね。
喉もカラカラ。」
たまたま目が合ったカウンター内にいる従業員の人に向かって、手で顔を扇ぎながらそう言いつつ、目の前にあった透明のグラスに入った水を飲んだ。



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