僕らのはなし。①


「あっ、おい。」
弾き終わると、また目を閉じ椅子から倒れ落ちそうになる星野。
仕方なく、駆け寄り支えてやる。


「おいっ、星野!!
しっかりしろよ。
女なんだから、気を付けろよ。」
「うん。
そう…私もこれでも年頃の女の子なの!
頭が良くなくても美人でもお金持ちでもなくても。
そんな事あの学校にいれば嫌でも普段から身に染みて分かってるけど。
だけど、私の家族が私の為にどれだけ時間も労力も割いてくれてるか知ってるから。
恋愛なんてしてる暇なーいの!!
あの学校卒業しなきゃなんないし、ピアノも好きだけど、特待生として結果出さなきゃだし、バイトもしなきゃだし。
アンタ達みたいには出来ないの!!
伊崎のバカヤロー!!」
「あっ?バカヤロー??」
完全に酔ってる星野は、普段言い足りない事を言ってるようだった。

酔っぱらい相手に何言っても意味ないし、本心を聞くチャンスだと思って黙って聞いてたら、バカヤロー発言。

これには正直若干イラッときた。


「おい、酔っぱらい?
おいって!!」
そんな俺にも全く構わず言いたい事だけ言ってまたウトウトしてる。
だから、声を大きめにしてまた声をかけ、強めに揺らすと、またパッと顔をあげこっちを見た。


「でも、ちょっと今日は寂しい!
何でかな。
あっ、そうだ!失恋か。
アハハ…。
今日はありがと~!!
助けてくれて。
借りを作っちゃったけど、返せるものがないの。
んー…あっ、そうだ!」
少し何かを考えた末に、星野は思いついたように声をあげた。

「何だ?」
「何にも返せないけど…出来る事一つあった。」
そう言いながら、俺の両肩を掴んで固定すると、星野は目を閉じて顔を近づけてきた。

だんだん迫ってくる事にドキドキする。

他の奴なら何とも思わないし、顔を潰してるだろう事もコイツだとそうもいかない。


あっという間に近づいてくる顔…綺麗なその顔を見つめていると、触れる直前にそのまま星野が倒れてきて、胸にもたれる形になった。


「おい?星野??」
「うっ、」
そう短く唸ると、口を押さえた。

「おいっ?」
「ウェッ」
俺が止めるも間に合わず、若干俺の服にかかる形で吐いていた。
そして、本人はカウンターにもたれ、気絶していた。

「マジかよ…。」
そう呟きフキンを持ってきてもらい軽く拭き取り、処理を店員に任せ、護衛が運ぶというのを断り、自分で抱えながら店から出て、車へ乗り込んだ。

星野の寝顔を見ながら、ゲロされた事にはちょっとイラッとしたけど、そんな事よりさっきのキス未遂や星野の気持ちを考えたけど、やっぱり俺はコイツを諦められないと思った。







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