僕らのはなし。①


「思い出したか?」
伊崎がそう問いかけてくる。

全てを思い出したわけじゃない。
ただ、私が飲んだのが水ではなく、お酒だって事、あと何か凄い絡んだし、介抱してもらったのは何となく…思い出した。

何か急にいろんな失態をしでかしたんじゃないかと申し訳なくなって、布団を目下まで持ち上げて顔をほとんど隠しながら頷くしか出来なかった。


「だから、そのままの格好で部屋まで送るのは出来なかった。
夜だし。
とりあえずお前のダチには伝えてもらうようにホテルの奴に頼んだけど。
あと、聖奈に借りた服とかもクリーニング後返却するように手配しといた。
ゲロはかかってない。
因みにホテルの女の従業員に頼んで着替えさせたから俺は見てない。」
「何かすいません。」
「別に良い。
気分は悪くないか??」
「うん。
それは大丈夫みたい。」
申し訳なくて謝った私に、伊崎は自分のダメになった服よりも私の体調を心配して聞いてくれたので、意外に思いながらもちゃんと答えた。

酒癖が良いとは言えないと思うけど、後には引かないらしい。


「あのー、弁償するから!!
ほんとごめん。」
「此方のスーツ…お値段は」
「良い…言わなくて。
聞いたら、きっと発狂するぞ。
弁償もしなくて良い。」
「ほんとに良いの??」
「あぁ。
それより仕事大丈夫か?」
「あっ、今何時??」
スーツの事を気にしつつも、伊崎に言われて時間がヤバイかもしれない事に気づく。

「10時。」
「えっ、ヤバい!!
寝過ぎた。
起こしてくれて良かったのに。」
「それはお前の事情だろ。」
「うん、そうだよね。
ごめん。
じゃあ私仕事行かなきゃ。
お世話になりました。」
それだけ言って部屋から飛び出し、パジャマのままなのも気にせず、部屋に戻り着替えると従業員室へと急いだ。




―???side―

「あの子…何処かで。」
「どうしました、奥様?」
「理事。」
呼び名を変えるように、暗にそう言って告げる。
「どうしました、理事?」
「あの子、誰だったかしら??」
理事の視線を追って男がある方向を見ると、今から向かう部屋から出てきた理事の長男と同世代のパジャマ姿の女の子。

「確か前にもご自宅で拝見したような…。
ぼっちゃまのご学友なのでは?」
「そうかもね。
時田。」
「はい?」
「調べなさい。」
「かしこまりました。」
理事の目は何処までも鋭く彼女の後ろ姿を捕らえていた。


まだ誰も知らなかった。
これから起こる彼女との争いに気づくことすらなかった。








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