僕らのはなし。①
―湊side―
あの日、あれから私は柚瑠に聞かれながらも仕事に集中した。
終わってから、前夜の話をすると、とても心配された。
なにわともあれ、怒濤の宿泊バイトをこなし、思ったよりたくさんのバイト代を手にする事が出来た私達は、それぞれの帰路についた。
一応、宿泊学習の名目だったからか、月曜日は代休で全校休みだったけど、私は学校に登校してピアノのレッスンに勤しんだ。
お昼過ぎ…お腹が空いたので何か食べようと思ったけど、今日は休みなので購買が開いてるわけもなく、学校の近所のコンビニに行こうとレッスン室から出た。
レッスン室のある特別棟から出て、何の気なしに中庭を通ると…ヴァイオリンのメロディーが聞こえてきた。
聞き覚えのある音色が聴こえる方向に行くと、やっぱり結城先輩が奏でていた。
でも、前と同じはずなのに、優しくも何処か悲しいメロディーで、だだ聴いてるだけしか出来なかった。
結城先輩が求めてるのは私じゃないから。
暫く見ていると、結城先輩の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
それを見ていると、私まで涙が目に溜まるのが分かった。
先輩にとって、聖奈さんは唯一無二の大切な存在。
それはあの日の数時間一緒の時間を過ごしただけでも充分過ぎるくらい伝わってきた。
大切な人が居なくなるのはどれだけ辛いんだろう…。
私には計り知れない。
このままじゃ、彼はまた心を閉ざしてしまうんじゃないかと思った。
それからも先輩の悲しげなメロディーは流れ続けたけど、ヴァイオリンの弦が切れてしまった。
先輩はヴァイオリンを近くにあったベンチに置くと、自分も無気力な感じで座った。
ベンチに置かれた片手の中指にはさっきの弦が切れた時に切れた傷が。
でも、先輩は面倒そうにそれを見ただけで、拭う事も絆創膏を貼る事もしなかった。
さすがにそんな先輩の痛々しい姿を見ていられず…私はゆっくりと近づいていった。
一瞬視界に入れ、すぐそらされた。
私は近づかないでほしい空気に気づきながらも、今自分がしてあげられるのはこれぐらいしかないので、先輩の手を取った。
ポケットから取り出したハンカチで軽く拭き取ったけど、先輩は直ぐ手を引っ込めてしまった。
「これだけですから。」
それだけ言うと、もう一度先輩の手を取り、ポケットから取り出した絆創膏を貼った。
それが終わると立ち上がりその場を後にした。
今のが撮られてるなんて知りもせずに。