僕らのはなし。①
「懐かしい。」
「此処にいらっしゃった事あるんですか?」
私が座ると、何かを思い出すように部屋を見渡しながらそう言った聖奈さんを不思議に思い、そう聞いてみた。
「えぇ。
前に時雨がこの部屋でレッスンしてるのをよく聴かせてもらってたから。」
「そうですか。」
それを聞いて、此処でも一緒に過ごした2人の時間があった事を知って少し胸がズキンと痛む。
「聖奈さん。」
「湊ちゃん!何してるの??」
私は自分の気持ちを振り払い、フワフワのカーペットが敷かれた床に膝をついた。
そんな私を見て、少し焦ったように聖奈さんが聞いてくる。
「私はずっと聖奈さんに憧れてました。
だから、どうして貴女がこういう決心をしたのか何となく…理解出来ます。
でも、お願いします…行かないでください。」
これは2人の問題で私が言うのはおかしいのは分かっていながらもそう言った。
「湊ちゃん、立って?」
「私にはお願いする資格も、聞いてもらう理由もないのは分かってます。
でも、言わなきゃ…」
「時雨の為?」
「私は先輩の事、何も知りません。
でも、たった1つだけ分かる事があります。
結城先輩は凄い聖奈さんを大切に思ってるって事。
私が言わなくてもきっと知ってらっしゃると思うんですけど…。
先輩はどこか寂しそうだけど、たまに笑う時があるんです。
見ている人を溶かすような…温かい笑顔で。
それは聖奈さんが居るからです。
居なくなってしまったら、もう先輩が笑ってくれなくなりそうで。」
「湊ちゃん、座って?」
そう言いながら、優しく立ち上がらせるとさっき座ってた椅子に座らせてくれた。
「湊ちゃん、私はね…1つの決断をする事って、外国で買い物するのと一緒だと思うの。」
「えっと…どういう事ですか?」
「外国で欲しいものがあったとするでしょ?
でも、その時に買わないときっともうその商品には巡りあえない。
どれ程後悔するのか分かってるから。
時雨は私にとって凄い大切な人よ。
時雨もそう思ってくれてるって信じてる。
だから、時雨の為にも行くべきだと思うの。」
「ごめんなさい。
本当にすいません。」
聖奈さんの言いたい事が伝わってきて、凄い申し訳なくて繰り返し謝った。
「ううん、ありがとう。
時雨の事を考えてくれて。
凄い嬉しかったわ。
あっ、そうだ。
これ、湊ちゃんに渡そうと思って。」
そう言って、聖奈さんが持ってた紙袋から箱を取り出し、開けて中身を見せてくれた。
こないだのパーティーで聖奈さんが私に選んでくれたミュールだった。
「これ…私にですか?」
「湊ちゃんに凄い似合ってたから。
貰ってくれる??」
「良いんですか?」
「勿論。
その為に持ってきたんだから。
言ったでしょ?
靴が一番大事なの。
湊ちゃんを素敵なところに連れてってくれますように。」
「ありがとうございます。」
そう言って、受け取った。
大事に紙袋に戻し、自分の座る椅子の横に置く。
「1つだけ…私のお願い聞いてくれる?」
「何ですか?」
「時雨を…いつか笑顔にしてあげて?」
「私に出来るか分かりません…。」
「きっと貴女なら出来ると思うわ。
お願いね。」
「聖奈さん。」
やっぱりどこまでいっても、聖奈さんは私の憧れで、結城先輩が想い続ける素敵な女性だった。
それから少し話して、聖奈さんは帰っていった。
今の話をある人に聞かれてるなんて、私は気づいていなかった。