詐欺師の恋


だから、偽の名前の方が楽だった。




それは自分じゃないから。



あの人にもらった名前も、自分だと思うことはないけど、空生と呼ばれると、繰り返し思い出されてしまう。




くれた瞬間のあの人の顔。



籠められた思い。




なぁ、俺、そんな人間になってないよな。


最初から、そんな人間じゃないよな。






―夜明けが嫌いなのは。



嫌いな髪が透けるから。


自分を見たくないから。




光が。




あの人を思い出させるから。




自分がいかに汚くて、真っ黒な人間だってわかるから。






だから、夜明けは好きじゃない。




あの人の面影が俺を責める。



生きてる間も、死んだ後も、俺はあの人の用意した家に帰れないまま。




おかえりも、ただいまも、してやらないまま。




まして、さよならさえも。









「…本当は、一人で帰るつもりだったんだ。」







朝。


駅のロータリー。



さすがに元旦のせいか、余り人気がない。




実家に帰るという櫻田花音の後ろ姿を見送りながら、車のドアに背中を預けた。




空はすっきりと晴れ渡っているが、空気は刺す様に冷たい。
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