詐欺師の恋
『ったく、零の奴やってくれたわねぇ…』
力強い腕でぐいぐい引っ張りつつ、メリッサが苦々しげに呟いた。
すれ違い様に、見知らぬスタッフ達が目を丸くして私達を見ている。
ちょっと、恥ずかしい。
『あれー?メリッサ、花音ちゃん、何かあったの?』
受付を通り過ぎると、ケイがきょとんとした顔で、訊ねてきた。
『話は後で。花音を隠して。じゃないと大変なことになるわ』
メリッサはそれだけ言うと、顎で受付の後ろのドアを示し、背を向ける。
『あれれ?やばい感じ?』
ケイは苦笑いしながらも、来て、と私に言うと、後ろのドアを開けた。
先日、中堀さんのステージを見るために、ケイが内緒で連れて行ってくれた時にも通ったドアだった。
『こないだ花音ちゃんが行ったのはここ、今日はもう少し上に上がるよ』
ふかふかの絨毯が敷かれた階段を上っていると、ケイが教えてくれる。
あの時は、初めての場所とか、初対面の人とか多すぎて、周囲を見る余裕がなかったけれど、いわれてみれば、階段はまだ続いていた。
『とりあえず、ちょっと寒いけど、ここに避難してて。お客もぼちぼち帰るだろうから。どうせ、零絡み、だろ?』