社内恋愛なんて
「じゃあ私、行くから」


 無言で俯いたままの守に声を掛ける。


守は下を向いたまま身動き一つしなかった。


後ろ髪引かれる気持ちを断ち切り、非常階段を出る。


ちょうどエレベーターが止まっていたので、急いで乗り込んだ。


 少しの時間でもあの場所にいたら、引き返して守の元に行ってしまいそうだった。


胸が引き裂かれるように痛い。


どうして。


もう、好きなんかじゃないのに。


楽しかった頃の記憶ばかりが思い出される。


大好きだったあの時の気持ち。


懐かしい守の匂いが、抱きしめられた時の感触を生々しく思い出させた。


 お願いだから、もう揺さぶらないで。


涙が溢れるのをぐっと堪えて、猫背になりながら自分の感情を押さえ込むように強く腕を組んだ。
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