社内恋愛なんて
今から家に行っても、きっと部長は私の気持ちを優先させて手を出さない気がする。


本当、どこまでも優しくて大人で誠実な人だと思う。


でも、いつまでも甘えていちゃいけない。


「大丈夫です。今、駅のホームにいるんで最寄り駅まで行きます」


「そうか、じゃあ、駅から家まで五分くらいだから、歩いて迎えに行くよ」


「分かりました。今からだと、30分くらいで着いちゃうんですが、大丈夫ですか?」


「問題ない」


 淡泊な受け答えだけど、声が嬉しそうだったので部長も楽しみにしてくれているのが伝わってくる。


 ようやく部長の家に行けると思うと、たった30分が待ち遠しくて仕方なかった。


 部長の家の最寄り駅に到着すると、出口改札前で部長が待っていてくれた。


手を振って、小走りで改札を抜ける。


「すみません、急に」


「暇してたからちょうどいいよ。あれ、髪濡れてるな。まだ雨降ってたか?」


「ああ、違うんです、これ。美奈子に水掛けられて」


 笑いながら手で前髪をおさえて言うと、部長は「えっ!?」と目を見開いて驚いた。
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