社内恋愛なんて
通路を渡り、店の出入り口に向かって歩いていく。


同期たちがいる所とは反対の場所を通ったので社員に見られることはなかったけれど、店にいる沢山のお客さんに抱っこされて運ばれる姿を目撃された。


部長は背が高く人目を惹きつける容姿とオーラがあり、ただでさえ目立つのに、私を横抱きにして歩いているのだから注目度は半端じゃなかった。


皆が通り過ぎる私たちを見ていたといっても過言ではない。


それなのに、部長はまったく気にする様子もなく堂々と歩いていた。


 店を出て、大通りを歩くと更にたくさんの人目に晒された。


「ああ、もう恥ずかしくて死んじゃいそう」


 思わず本音が零れてしまった。すると、


「そんなに恥ずかしいなら、俺の胸に顔を押し付けておけばいい。周りが見えなければ案外気にならないものだ」


「部長は恥ずかしくないんですか?」


 見上げて言うと、部長は当たり前だと言わんばかりのポーカーフェイスで言った。


「気にしている場合じゃないだろう。湯浅がこんな時に」


 胸がトクンと高鳴る。


私のことを第一に考えてくれているのが、優しい口調から伝わってくる。
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