この気持ちをあなたに伝えたい
 大学生になってから、大学関連で忙殺された。この日は五限まで授業があって疲れていた。自宅から大学まで約三十分かかって、電車を一回乗り換えるだけだからまだ楽だった。
 家に帰ってさっさと寝ようと思いながら、歩道を歩いていると、背後で足音が響く。後ろを見ても誰もいなかったので、疲れているせいだと思い、再び歩いた。
 だけど足音は止まなかった。音は大きくならないので、一定の距離を保ちながら、自分の背後にいるので、怖くて堪らなかった。
 角を曲がったところに店があるので、逃げ込もうとしたものの、早くに閉店していた。携帯で誰かに連絡しようと手を動かしたときに何かが手にぶつかった。真下に落ちていたのはソフトボールくらいの大きさの石だった。
 手の痛みと背後の恐怖でパニックになり、ひたすら走った。
 何度も転びながら、走り続けていると、いつの間にか足音は消えていて、人の姿はなかった。どこを見渡しても人はいなかった。
 マンションに辿り着いて、ようやく自分の家の中に入ることができると、その場に座り込み、息を整えていた。
 さっきのあれはストーカーなのかもしれない。
 今日は親が家にいたから、家の中は大丈夫に違いない。鞄で傷ついた手を隠しながら、笑いかけた。

「最愛、どうした? 汗びっしょりだな・・・・・・」 
「お父さん、ただいま。風呂は?」

 声が震えないように、いつもの自分を装った。

「入れるけど、ご飯は?」
「先に風呂に入る」
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