恋愛の神様

僕はそっと溜息を吐いた。

タツキは時々強引で冷徹だ。

目的の為には手段選ばずってカンジ?

でもさ、それが全部僕の為なんだってのを僕は知らないわけじゃない。

僕のっていうか僕に歌を歌わせる為、なんだろーけどね。



タツキはシャチョーやママに自分が嫌われてるんだと思い込んでる。

自分に魅力や価値がなかったからだって。

僕から見れば全然愛されて大事にされているんだけど。

タツキがそう思い込むに至った幼少時代、確かにタツキは両親にほっとかれ気味だったらしいけど、それはたまたまタイミングが悪かっただけで、弟より愛されてないとかじゃないんだ。

その頃、ライバル会社に出し抜かれてパパは会社を立て直そうと必死に仕事して、ママも人脈を広げようとアチコチに顔を出して営業してたんだって、古いスタッフさんが言っていた。

僕がそう言っても一蹴するタツキは、だからシャチョー達を見返すために僕に歌を歌わせる。

自分が無価値なんかじゃないと証明するために、僕をトップスターに伸し上げるんだって。


タツキの側の理由がどうでもさ、タツキが何を置いても僕を大切にしてくれるのは事実なんだよね。

テスト前だって、僕の仕事が立て込んでれば僕を優先する。
それで、夜遅くまで勉強するんだよ。

どんなに忙しくても誕生日を祝ってくれるし。

僕の体調が悪いと真っ先に気付いてくれるのもタツキだ。

頑張ったら御褒美くれるし。


僕の為になら他人にヒドイ事も平気でする。

全部僕の為。


タツキは全部自分の目的の為だって言うけど、違うでしょ。

でもそれを言っても天の邪鬼なタツキは絶対に認めないって分かってるから言わないけどさ。

大切にされていると嬉しくなる半面、自分の事さえ削って後回しにしてしまうタツキに時々胸が痛くなる。



僕なんかの為にそこまでしなくてイイのに……。


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