恋愛の神様


「そう言えば、遅刻なさったとか……スミマセン。ワタクシの為にあんな所で車を降ろされたからですよね。道に迷ってしまいましたか?」

「…え?……ああ。違うよ。会社に行ったんだ。」

「はぁ…、会社ですか?」

「うん。ピーの。」

「はぁっ!?」


思いもかけない寄り道にワタクシは目を見開きました。

この人、ワタクシの会社に一体何用で出向いたのでしょう。

不安一杯に見詰めるワタクシにハクトさんはある種得意気にもとれる微笑で言い放ちました。


「『ピーの子は僕のだ』って言ってきたんだよ。『クサガサン』に。」


空襲警報発令!!
ってか、既に戦禍に巻き込まれてますっ!!

よりにもよってなんだって草賀さんにそんな誤解されるような事を!!


「ななななんて根も葉もない事をぶっちゃけていらっしゃるんですかーっ!!ワタクシハクトさんの子を身ごもるような事に覚えはございませんよっ!!」

「え~…?だってピーの子だったら、飼い主が所有権を主張してもよくない?」


ブリーダーでもあるまいにそんな理屈が通るわけありません。

途方に暮れつつ、気になった事をおずおずと尋ねてみました。


「それで…あの……草賀さんはなんと?」

「えと…………『は』て。」

「歯?」

「うん。…僕も時間が気になったし、言いたい事言ってさっさと帰っちゃったんだけど……マズカッタ?」


ワタクシは深く溜息を吐きました。


まぁ、前触れもなくそんな事を言われた日には誰だって「は?」しか言えませんよね。


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