君と奏でるノクターン
「どうだった、音合わせ」

カウンターからマスターの柔らかい声。


「周桜宗月、彼も父親なんだって思った」


「そうか……大丈夫なのか、詩月は」

ミヒャエルは詩月の顔を見ながら、マスターに首を振る。


「朝から調子が悪いらしいんだ。熱が高い」


「弾けるのか?」


「音合わせは1発OKだった……」

マスターが無言で差し出したオシボリ。

ミヒャエルは受け取り、詩月に手渡す。

詩月は額に滲む汗を拭く。


「……何を弾けば」


「おい、成るように成れだ。弾きたい曲を弾け。即興は得意なんだろう」

カウンターのマスターが首を傾げる。


「周桜宗月にアンコールを任されたんだ」


「それは……大役だな」


「倒れては元も子もない。時間まで休め」

ミヒャエルは、自分が無茶を言っていることは、重々承知している。


――こんな状態でも、あれほどの演奏をする

< 159 / 249 >

この作品をシェア

pagetop