君と奏でるノクターン
いきなり立ち上がり、ヴァイオリンを構えた詩月に客の視線が集中する。

詩月は凜として、ヴァイオリンの音色を重ねる。

詩月のヴァイオリン演奏は、自信に満ち溢れ観客を圧倒しながら、爽やかな風のように吹き抜ける。

ミヒャエルはジョッキを抱え、客席の間を縫って歩く。

詩月のヴァイオリン演奏に耳を澄ませて思う。


――空気が……変わった


カフェ·モルダウでは、貢がパソコン越しに聴こえる詩月の演奏に、手を止める。


――周桜のヴァイオリンが曲の流れを変えた


貢は学オケで幾度か弾いた曲を思い返し、楽譜を思い浮かべる。

マスターが珈琲をカップに注ぎながら、貢に「ゆっくりしていいよ」と促す。


――やるな、たった数小節で威圧感を癒しに変えやがった


理久がカウンターで頬杖をつき、詩月の演奏を見守る。


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