シンデレラの落とし物
「うん……そうだね。わたしもヴェネチアは予定に入れてなかったから、いまここにいることが夢みたいというか……あ。それいったら秋くんといることのほうが夢みたいなのかな」

「そこ、取って付けたようにいう?」

わざとふて腐れてみせる秋に、ごめんと笑う。

「ヴェネチア、素敵なところだね。来ることができてよかった。それに、こうして話をしながら旅をするのってひとりじゃできないから……うん、楽しい」

話ながら美雪はつかの間、思いにふけるような表情を浮かべ、どこか頼りなげに笑う。僅かにみせた美雪の儚い様子に、秋の気持ちは揺さぶられた。

「どうしてひとりで旅行に?」

「……そろそろ帰らない?」

美雪は秋の質問をはぐらかすように立ち上がった。さっきまでの楽しげな表情は影を潜め、心を閉ざした硬い表情がそこには浮かんでいる。
こうなったら引き留めるわけにもいかない。楽しい時間は終わりを告げた。
小さくため息をつくと、秋も席を立った。

聞いてはいけないことを聞いたのだろうか?
秋が疑問に思うほど、美雪の態度はよそよそしくなった。
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