予想外の恋愛
朝田さんの口から川瀬という名前が溢れたことが、私の胸をチクっと刺した。
そうなるともう私は素直になれなくなる。
「お会いしましたよ川瀬さん。すっごく美人で仕事が出来そうな人ですよね」
「そうか?それよりあいつ変なこと言ってなかっただろうな」
「…変なことってどんなことですか?」
「…いや、言ってないならそれでいい」
なんだそれ。
言われたら困ることがあるかのような、むしろ川瀬さんと私が会ったことを良く思っていないかのような態度だ。
考えたくはないけれど、もしかしたら川瀬さんが言ったことは嘘じゃないのかもしれない。
そもそも、私より川瀬さんのほうが確実に朝田さんのことをよく知っているだろうし付き合いも長いのに、その川瀬さんの言葉を疑っている自分に嫌気がさす。
考えるまでもなく、私は川瀬さんに比べて朝田さんのことを知らない。
「…ナギサちゃん?」
「は、はい!」
顔を上げると中島さんの心配そうな表情がそこにあった。きっと何かを聞きたいんだろう。だけど朝田さんが隣にいては聞けないことなんだろう。
「…先に中島さんにお淹れしてもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
ニコっと笑ってくれた中島さんに安心感を覚え、気持ちを切り替えて豆を挽きだした。
ゴリゴリという豆を挽く音と、次第に広がっていく香りに周りの空気が包まれていく。