《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
鼻先がつくほど近くに歩の顔がある。
驚いたまま身じろぎもせずに、ただ歩の瞳を見つめていた。


どれくらいの間だろう。
時間にすれば、きっと大した長さでない時間だ。歩と一子はお互いの顔を見つめ合っていた。


視線をそらすタイミングを逸していた一子。

「……なんか……俺、久々にドキドキしてるんだけど。この状況」
一子の左肩に手を置く歩。

「あ、あの、歩さん……」
視線は、交わったままだ。触れそうな鼻先。

「いつもの俺ならさぁ」
歩の視線が少しだけ下へ動いた。

「キス出来てた。この状況」
歩の顔が少し傾き、触れた鼻先。呼吸が出来なかった。息を止めていたから。

「でも……やめとこっ!」
バッと一子の肩から手を離して、後ろに下がる歩。


唖然としている一子に、笑顔をみせた歩。

「俺、マジになったから」

「え?」


「マジだから……一子ちゃんのこと」

歩の言葉が頭に渦を巻く。

ーーーマジになった? マジだから……なんか……それって、まるで歩さんは、私を?

「歩さ…」「ただいまー、帰ってきましたよ〜」
玄関のドアが開いて、三津子が入ってきた。
「あれ? 何? 2人もしかして、いい関係になろうとしてた感じ〜?」

三津子の言葉を無視した一子は、慌てて立ち上がり土間に下りた。


「……ただいま」
力なく入ってきた末子が居間にいる歩の近くまできて頭を下げた。
「すみませんでした。ワガママ言って大人げなかったです」
小学生らしくない末子の謝り方に一子は、頭を抱える。

「謝ってるの? それで。大人げないって当たり前じゃない? 子供なんだから。末子、もう少しマトモに謝りなさいよ」



「まあまあ、一子ちゃん、もういいって。末子ちゃん、こうして戻ってきてくれたんだし。俺の方こそ、カリスマじゃなくてごめんな? でも、近いうちにカリスマ美容師になるように頑張るからさ!」

歩は、末子の頭をポンと叩いた。

「頑張ってなれるもんなの? カリスマ美容師って」
三津子が自分の長い爪にほどこしたネイルを眺めながら、うさんくさそうに歩に尋ねた。
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